※2006年の夏にmixiレビューに載せたものの刷り直しです。
こりゃあ売れるわけだ。だって、読んでて気持ちいいんだもん。オビの文言が、「全ての日本人に誇りと自信を与える画期的日本論」ですもんね。内容は、かいつまんで言うと、近代社会の否定と日本礼賛論。具体的には
01.「論理」を否定して「情緒」「形」の文化の奨励
02.自由・平等・民主主義批判(=アメリカニズム批判)
03.武士道精神の復活を提唱
まず01.論理の批判について。
「論理」に対する疑いを唱える文を読んだのは、たぶん初めてです。それだけになかなか斬新な主張に感じられました。ここで重要なのは、著者の藤原正彦氏が数学者であるということ。論理絶対であるはずの数学者が「論理」の支配する文化を批判している。これには説得力を感じざるを得ません。
ただ、氏が主張するほど「論理」が不必要なものにも思えません。シーソーの体重が「論理」により過ぎている世の中なので、著者はバランスを取るために論理不要論をといているのかもしれませんなが、「情緒」も「論理」もお互い反目するものではなく、共存しうるものなのではないでしょうか。
02.自由・平等・民主主義批判について
自由・平等・民主主義の批判は、保守論客のお歴々がすでに「これでもか」ってくらいやってます。内容も大差はないと感じました。
民主主義に弱点があるのは歴史が証明してますが、かといって「民主主義」に変わりうる社会システムがあるかといえば、クエスチョンマークです。自分は、代用のシステムが見当たらない以上、「自由」「平等」を前提とする民主主義が一番最良のシステムだと考えます。
そろそろ、創造的な批判論がでてきてもいいんじゃないかと思いながら読んでると…
03.武士道精神の復活について
その自由・平等・民主主義の欠点を補うべく筆者が提唱しているのが、「武士道の復権」です。「欠点を補うべく」というのは自分の勝手な解釈、または読み違いかもしれません。卑怯なことは理屈(=論理)抜きに「ならぬものはならぬ」という日本特有の(このテーゼは会津の)武士道精神。これが大衆に備われば、確かに民主主義体制でも社会の質は向上するでしょう。
さらに著者は、武士道を生んだ土壌である、日本の美しい田園風景を礼賛しています。「美しいもの」が品格ある国家には欠かせないという主張には同感です。
全体を通して
まず、講演を文章化したものであるせいか、非常に読みやすかったです。『バカの壁』と同様ですね。
さらに、筆者の主張に自信がみなぎっているので、読んでてとても気持ちがいい。論理を否定してるだけあって、理屈抜きで「こうだ」と言い切っている箇所が多いのですが、主張をとうそうとする場合、根拠に頼りすぎないほうが人の心に通じるのだな、と感じました。力づくで納得させるには、整合性のとれた論理を用いればよい反面、著者の主張する「情緒」への説得を試みるなら、論理に頼り過ぎない「願望」の方が通じるのかもしれません。
余談ですが、案外、小林よしのりに足りないのは、この辺りなのかもしれませんね。彼の論法は、敵対論客へのネガティブキャンペーンにより過ぎている。「ゴーマンかましてよかですか?わしはこういう日本が好きなのだ」と締めくくってみてはいかがでしょう?小林さん。
全体的に、筆者の主張には賛成です。問題提起の意味もこめて、この本が多くの人に読まれるといいな、と思いました。
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