ブログ紹介

フィリピン・バギオ市在住 ㈱TOYOTAのブログです。旅日記・書評・メモなどなんでも詰め込むnaotonoteの文字通りオンライン版。
現在は英語学校 PELTHで働いています。過去のフィリピン編の記事は、学校のブログに転載しています。

2011-08-16

韓国人と歴史問題を語るために

僕と韓国人のジョン(English name)が学校で一緒に過ごした時間は、そう長くはない。僕が滞在残り1ヶ月くらいのタイミングで彼が入学してきたと記憶しているので、一緒にいたのはせいぜいそれくらいだ。

それでも、彼と仲良くなったのは、グループクラスが一緒になったこと、ロビーで座る席が近かったことが大きい。お互いの英語力が近かった、というか、どちらかの英語力がどちらかを圧倒していることもなかったので、気楽に話せたというのも理由の一つだろう。そもそも人当たりが良く、かつ知的な彼は、学校内でも友人が多かった。そして、彼の記憶が鮮明に残っている理由の一番は、おそらく「日本と韓国」をテーマにいろいろ話意見を交換したからだ。


ある日、ジョンは僕に日本の「倭寇」について聞いてきた。どうも韓国では、「ニンジャ」や「サムライ」の如く、「ワコー」のイメージがひとつのキャラクターとして定着しているらしい。特に、TVゲームでそれは顕著のようだ。

「倭寇」とは、手っ取り早く言うと日本の海賊だ。

ジョンはそんなキャラクターとしての「倭寇」が好きらしい。「こんど、対馬列島に行きたいんだ。そこは、倭寇の基地があるはずなんだ。何か知らないかい? 対馬にいけば、倭寇に関連した史跡があるんだろう?」

対馬にそんな場所があるかどうかは知らなかったので、正直に「わからない」と答えた。ただ、ジョンの中で倭寇に対して相当変なイメージができあがっている気がしたので、倭寇について、知っている限りのことを教えようと努めた。

「倭寇には前期倭寇と後期倭寇があって、後期はほとんど日本人じゃないんだ。中国人がその大半で、倭寇に参加した朝鮮人だっていた」
「彼らは単純に海賊ってだけじゃなくて、武装商人っていう言い方もありかも」
「これはただの想像だけど、韓国でも探せば海賊の歴史ってあるんじゃないの? 海に面してる地域って、だいたい海賊が発生するでしょ?」

ジョンはそのたびに、「本当?」「そんなの聞くのは初めてだ!」と驚いた。そのあと、会話はだいぶ盛りあった。テーマは主に、対馬の話題から発展して、日本と韓国の観光名所などについてだった。盛り上がっていたので、自分はジョンに思い切って聞いてみることにした。


「日本の統治時代について、ジョンはどう思う?」

日本人と韓国人がおよそ半々の比率で暮らすこの学校において、ある意味タブーとも言えるこの質問に対して返ってきたのは、予期せぬ内容だった。

「あぁ、それはとても難しい質問だ。…でも、僕が思うに、あの当時は帝国主義の時代でしょ。日本が、韓国を植民地化したのは、なんというか…Natural なことだと思うよ」

ここでNatural をどう訳するかは、とてもデリケートな問題だと思う。「自然な流れ」とか「当たり前」とか「仕方がない」とか、いろんなニュアンスで受け取ることができる。ただ、どう解釈するにしても、ジョンの意見はとても「冷静」かつ「客観的」だと僕は思った。そして、驚いた。

あの時代、日本は韓国(李氏朝鮮)の近代化を願った。しかし、閔妃(ミンピ)を初めとする保守派が力を持っていた朝鮮では、金玉均らをはじめとする改革派グループの努力は実を結ばず、朝鮮の自力での近代化はできなかった。

近代化ができない、というのは、当時の国際情勢的には「植民地になるしかない」ということだ。日本にとって、朝鮮半島は国防のためにとても重要な場所だった。朝鮮半島がロシアの植民地になるくらいなら、日本が植民地にするしかない。「とるか、とられるか、2つに1つ」。これが、当時の世界だった。以上が、僕の基本的な認識だ。僕個人の認識であると同時に、かなり客観的な歴史的事実に即した見解であるとも、自負している。

この、「客観的な事実」を受け入れてくれることが、韓国人にとっては難しい。なぜなら、彼らは「被害者」だからだ。そして、「加害者」は僕ら日本人だ。植民地になったのは韓国で、それを支配していたのは日本だ。運良く日本は近代化に明治維新という名の近代化に成功し、列強の一員となった。一方、韓国は近代化に失敗し、日本の植民地になった。

韓国にもプライドはある。日本の植民地になったことが「歴史の流れだった」と割り切って受け入れることは、難しい。まぁ、日本も同じかもしれない。先の戦争でアメリカに敗北し、その後アメリカの属国になったことを「歴史の必然だった」と受け入れることは、自分の中のなにかが許さない。

これまでも韓国人と歴史認識について話したことは何度かある。高校に韓国の姉妹校があった関係で、ホームステイにいったとき。前回の欧州放浪のとき。でも、「当時の状況を考えれば、仕方なかった」論はなかなか受け入れてもらえない。そういった状況論よりも、「日本人は植民地支配の過程で、多くの朝鮮人を殺した」とか「我々から言葉や朝鮮名を奪った」という、自分達が受けた被害について説明するのを好む。

そういうわけで、ジョンの口から、自分の認識ときわめて近い意見がでてきたことは、僕にとってかなりの驚きだった。感情に頼らず、日本の韓国植民地化を「Natural」と言った。すくなくとも、彼の意見は、日本の当時の立場を理解したうえでの発言だ。続けて聞いてみる。

「ジョン、俺は、君の意見はとても客観的で冷静だと思う。でも、そういう意見をもってるのは、韓国ではマイノリティなんじゃないのか?」
「まぁ、世代にもよるよね。ただ、僕らの世代(注:彼は19歳)には、こういう考え方する人間も、そこそこいるよ」

これは、驚きだった。日本では、韓国人は「反日」で当たり前だというムードがある。正直、僕もジョンはこの話題に関しては、日本の非を責めてくるのではないかと思って、それに対してどう反論するか、待ち構えていた部分がなくもなかった。それが、見事に肩透かしを食らった。しかも、彼のような意見を持つ韓国人も、その割合はともかく、確実に存在するのだという。

おそらく、彼の言っていることは本当だろう。感情的には難しくても、「日本の朝鮮植民地化は、当時の状況を考えると自然なことだった」と理屈で理解できる韓国人はそれなりにいるに違いない。



日本では韓国、あるいは中国の反日ムードばかりが報道されるが、こういう韓国人もいることを、日本人はもっと知るべきだ。韓国人の中にも、日本と歴史論争ができるだけの「冷静さ」を兼ね備えた人間は、確実にいる。それを忘れて、感情と感情で対立しあっていても、建設的議論はなにもできない。

僕も含めて、日本人は「韓国人は感情的で、彼らとはまともな歴史論争ができない」と決め付けてはいなかったか。韓国のなかにも、ジョンのように相手の立場にたって物事を考えることのできる人間は、いる。僕たちが語りかけるべきなのは、そういった相手に対してだ。

むろん、政府と政府の喧嘩は、大いにしてくれて結構。国益と国益をかけて闘う外交の場では、韓国政府に遠慮はこれっぽっちもいらない。竹島問題に関しても、日本政府は韓国に遅れをとるべきではない。竹島は日本領であると、しっかり主張して然るべきだ(まぁ、今更民主党政府には何も期待しないけれど)。

ただ、民間レベルでは別だ。僕らは国益を追求する外交官ではない。僕らのようなバックパッカーにとっては、国籍を超えてお互いのパーソナリティーを理解しあうことが最重要課題であり、そのしこりとして「歴史問題」が横たわるのならば、それを取り除くための対話が必要だ。そして、冷静な対話ができる韓国人は、一定数存在することがわかった。僕らは、こういった人たちに対して語りかけなければいけないと思う。




2 件のコメント:

  1. はじめまして、台湾出身のDavidです。
    御文を拝見頂きました。

    現在仕事のために中国に滞在しており、
    いろいろな中国地元の人間と話し合う機会が多いです。
    けれど、未だに台湾と中国の歴史、そして国の関係(あるいは「両地域の関係」という人も多い、とくに中国系の連中)という議論をきちんと話すことを難しいだ、といつも思いました。
    なぜなら、中国の立場、そしてその教育の中心は「台湾は中国の一部で、中国の代表は中華人民共和国で、台湾は国としてまったく受け入れない」なのです。
    ネットにある現地の中国ユーサーは、たまに「もし台湾は独立にしたらぶっ殺す」「核ミサイルで滅べ!」などの極端なやつもいます。
    しかし、実際に現地の人と交流すると、無関心の人もいるし、台湾は実際に中国と違うことを受け入れる人もいます。特に台湾人と交流する経験がある人ならこの傾向が高いと思います。

    逆に、台湾の地元の人も未だに中国人に対する敵意を持つ人もあります。しかも少ないとはいえない程度です。それは今まで中国は台湾が国じゃないと言っているため、様々な弾圧行動を行い、前の極端なやつのけんもあり、逆に台湾の人の反感を買うことばかりです。

    だから、こういう「歴史問題の話し方」という話題は、深刻に感じられます。

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  2. Davidさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
    確かに中国と台湾も、日韓と同じような状況なのかもしれませんね。立場によって、歴史、あるいは国家をどう認識するかが異なる。

    ちなみに僕は「台湾(中華民国)は中華人民共和国とは違った、れっきとした国である」という認識です。僕も台湾人の友達が何人かいますが、彼らと話していると、本土の中国人とは明らかに違った印象をうけます。文化・歴史・政治、様々な点において「違う」と感じられます。

    もっとも、一口に「本土の中国人」と言っても、上海人と北京人もまた全然違うところが面白いと思うのですが。

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