ブログ紹介

フィリピン・バギオ市在住 ㈱TOYOTAのブログです。旅日記・書評・メモなどなんでも詰め込むnaotonoteの文字通りオンライン版。
現在は英語学校 PELTHで働いています。過去のフィリピン編の記事は、学校のブログに転載しています。

2008-12-10

小林よしのり vs 佐藤優

最近久しく、論壇がにぎわいません。『論座』(朝日)『現代』(講談社)といったオピニオン誌が相次いで廃刊し、他のオピニオン雑誌も売り上げが落ちているとのことです。「論壇」そのものがネット空間へ移行しつつある、という現状もあるでしょう。

近頃は、日本の言論界の空気もだいぶ戦後色が薄れたというか、保守系の意見のほうが大勢を占めている気がします。右派陣営が一定の勝利をおさめ、左派陣営に対する「掃討戦」に移行しつつある、とでもいったらいいのでしょうか。廃刊した『論座』『現代』も、共にリベラル系の雑誌でした。最近書店でよく見るのは、『諸君!』(文芸春秋)『正論』(産経)など保守系雑誌ばかり。特集も、田母神論文にまつわるものばかりです。

最近の論壇に活気がないのには、注目を集める大論争が発生していないこととも関係がありそうです。かつて論壇がにぎわっていた頃は、従軍慰安婦論争や、歴史認識をめぐる論争など、必ず左右両陣営を巻き込む大論争の存在がありました。

そんな中で、最近とある2人の間で、論争(?)が起こっているようです。その2人とは、小林よしのり(写真左)と佐藤優(写真右)。
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小林よしのりは、もともと漫画家ですが、『ゴーマニズム宣言』から社会批評を行うようになり、薬害エイズ問題、オウム真理教問題、従軍慰安婦論争、教科書検定問題などの節々で、常に注目を集めていた人です。自身曰く「わしが論壇を食わせてやっている」とか「小林いるところに論争あり」とまで言われるくらい、ある時期は常に論争のド真ん中にいた人でした。

佐藤優は、このブログでもよく書評を書いてますが、起訴休職中の外務官です。今や一番売れている作家と言えるかもしれません。その主張は保守的ではあるものの、リベラル陣営にも一定の理解を示しており、飽和状態の保守系論壇の中では、新鮮な意見が多く見られます。『SAPIO』で連載をしていると思ったら、最左派の『週刊金曜日』でも連載を抱えていたりと、左右両陣営をまたがって活躍する時の人です。

さて、その両者間の論争ですが、何が争点になっているかというと、これがよくわかりにくいのです。ことの発端は、佐藤が「琉球新報」の連載で「沖縄は全体主義の島だ」と主張する有識者を非難し、小林がこれを「名指ししていないが、もちろんわしのことだ」と捉えたことから、佐藤の批判を始めたことにあります。しかし、両者とも同じ雑誌の『SAPIO』に連載を抱えていることから、問題がこじれ、本格的な論争が始まる前に争点が脇にそれました。当初、佐藤の批判の矛先は、小林よりもむしろ『SAPIO』の編集部に向いていました。佐藤曰く、
雑誌にはいろいろな長期連載があります。Aという長期連載者が、Bという別の長期連載者が書いているものはデタラメだと論評している。Aさんの言うとおりだとすれば、Bさんというデタラメな人に長期連載を書かせている雑誌編集部の責任はどうなるのか。こういう問題です。
日刊サイゾー 「よしりんと戦争勃発!」佐藤優ロングインタビューより)
加えて、小林の佐藤批判も、佐藤の主張そのものよりも佐藤個人の人格攻撃になっていた感があり、争点が明確でない時期が続いていました。佐藤自身も、この時点ではまだ「論争」が起きているという認識ではなかったようです。
私は、今回の一件を「論戦」とは意識していません。論戦には二つの条件があります。一つは争点を明示していること。それから、相手に対する最低限の人間としての礼儀があること。この二つが小林さんには欠けている。論争以前の問題なのです。論争以前の問題であるのに、それをあたかも論争であるかの如き扱いで「SAPIO」編集部は掲載した。最初から論戦になっていないわけですから、小林さんが問題なのではない。編集権はいったいどうなっているのか、ということについて私は問うているわけです。(同上)
そんな指摘に応えて、かどうかはわかりませんが、小林も自身の連載の欄外で、争点を掲げました。
わしと「言論封殺魔」(注:佐藤のこと)との論点は明確である。「言論封殺魔」は次の論点で議論するのを怖がって逃げている。

  1. 集団自決は「軍命」か否か?
  2. 独立論は沖縄の良心的な人々の意見と言えるか?
  3. 沖縄の新聞は偏向していないか?
  4. 沖縄の言論空間は全体主義ではないか?
(『ゴーマニズム宣言』「SAPIO」11/26号 P58より)
そんな今月、佐藤も『世界』(岩波)の今月号で、元沖縄県知事の太田昌秀と対談し、沖縄問題について真正面から取り扱っています。

両者間でのやりとりは、夏ごろからずっと続いているのですが、論争が本格化するのは、どうもこれからの様です。次の小林の反応が楽しみですね。沖縄に関しては、私も含め本土の関心は低いのが現状のようで、この論争が日本を巻き込む大論争に発展するかどうかは、疑わしい点もありますが、ともに知名度抜群の両者間での意見の応酬は、論壇に活気を取り戻すきっかけとなるかもしれません。