前安倍政権で官房長官を務めた、与謝野馨(よさの かおる)氏の著。氏は与謝野鉄幹・晶子の孫でもあり、小泉政権でも何度か閣僚ポストを経験した政治家。最近は、ポスト福田としての期待度も増しています。最近発売の本ですが、発売と同時に書店から姿を消していたので、思った以上に売れたのかもしれません。再び書店に並んでいたので、今度は買いそびれないように購入。奥付をみると、初版の10日後に3刷になっていました。
新潮新書からは、麻生太郎の『とてつもない日本』も出版されているので、割と人目につきやすいのかもしれません。安倍前首相の『美しい国』以降、知名度の高い政治家が新書を出版するケースが増えていますが、これは歓迎すべき風潮ですね。安い新書で、著者も「わかりやすく」を第一に書くので、政治家が何を考えているのか、国民に伝わりやすくなります。
もっとも、政治家にとっては印税やら出版記念パーティで活動資金源になりますし、多くの国民の目に触れる分、ハードカバー本に比べると、あまり突っ込んだことは書かないという側面もありますが。
さて、内容ですがおおざっぱにわけると
最後に、本書とは関係ありませんが、政界での与謝野馨のポジションにいて見てみたいと思います。最近、与謝野氏をポスト福田候補として推す声が高まっているようですが、これは実際にはどうなのでしょうか。
まず、真っ先に気になるのが、現在与謝野馨は党内無派閥であるということ。麻生太郎・小池百合子・谷垣禎一などは、それぞれ自分の所属する派閥があり、その派閥の人数分は、ほぼイコールで総裁選での得票数になりえます。与謝野氏は一時期志帥会という派閥(伊吹派)に所属していたこともありますが、現在は無派閥。派閥に所属しない議員が自民党の総裁になったことは、今まで一度もありません。
自民党内で派閥の力自体が弱まっている現在、福田が選ばれた総裁選の様に派閥の拘束が聞かなくなる場合もありますが、無派閥の議員が総裁選でどこまで戦えるのかは疑問があります。
また、面白いのは本書の上げ潮路線批判で槍玉にあがっている中川秀直が、最近ポスト福田に意欲を見せているということです。仮に与謝野・中川の両人が総裁候補として手を上げれば、政策面で真っ向から対立することになります。これは総裁選の構図としては、選ぶ側もわかりやすく、国民の関心も高まるでしょう。
さらに、民主党の勢いが強まっている時期に、総選挙の顔として与謝野馨に集票能力があるのかという疑問があります。選挙の顔としてなら、麻生や小池の方が格段にインパクトがあるでしょう。先日の補選で敗北し、自民党に逆風が吹く中で、与謝野馨に自民党の救世主となるだけの素養があるか、といわれれば、少し印象が薄い気が否めません。個人的には、与謝野氏は主義・主張がハッキリしている人間なので、総理大臣よりも大臣や党役職として活躍して欲しいと思っています。最後に、ポスト福田に関して気になる記事を見つけたので、紹介しておきます。
→上杉隆「『ポスト福田』候補を決定的に変えた2つの記事」
麻生と与謝野の再接近は、麻生=与謝野クーデター説の再来か!?
新潮新書からは、麻生太郎の『とてつもない日本』も出版されているので、割と人目につきやすいのかもしれません。安倍前首相の『美しい国』以降、知名度の高い政治家が新書を出版するケースが増えていますが、これは歓迎すべき風潮ですね。安い新書で、著者も「わかりやすく」を第一に書くので、政治家が何を考えているのか、国民に伝わりやすくなります。
もっとも、政治家にとっては印税やら出版記念パーティで活動資金源になりますし、多くの国民の目に触れる分、ハードカバー本に比べると、あまり突っ込んだことは書かないという側面もありますが。
さて、内容ですがおおざっぱにわけると
となっています。1-3章では自身も大きく関った小泉・安倍政権下のできごとについて述べられています。安倍首相退任時の「麻生=与謝野クーデター説」についてもきちんと反論し、小泉・安倍の両首相についても著者の評価が読み取れる部分が何箇所かあります。4・5章の政治遍歴については、与謝野氏の生い立ちや、氏が師事した中曽根康弘氏・梶山静六氏などとのエピソードが沢山あってとても面白のですが、ここでは割愛します。やはり政治家の本なので、パーソナリティよりも政策について述べられている部分を中心に見ていきたいと思います。
- 第1 - 3章 :小泉・安倍政権の総括
- 第4 - 5章 :これまでの政治遍歴
- 第6 - 終章:自身の政策
■与謝野馨の政策論
市場原理主義批判
割愛した5章までですが、注目すべきは第3章で、昨今の新自由主義・市場原理主義についてきっぱりと批判しています。私は今でも、小泉構造改革路線は、あの時点では正しかったと思っている。「あの時点では」というところがミソでしょうか。小泉=竹中改革について「富めるものがさらに裕福になり、貧しい人はさらに貧しくなったというが、あの時点ではああするしかなかった。あの時点で何もしていなかったら、日本全てが貧しくなっていた。あと少しで沈没する船がある。船員は救出されたが、乗客は溺死した。それでも、皆が溺れ死ぬよりかはマシだった」という評価を聞いたことがあります。与謝野氏はこの本で状況が目まぐるしく変わる現実を見つめる政治家は、それに合わせて自分の意見も臨機応変に変えなければならない、としきりに主張しています。曰く「君主豹変せよ」だそうです。あの時点で正しかったからといって、今後も市場原理主義が「永遠の真理」であることは決してないと言っています。
問題は、この小泉改革の成功によって、「市場原理は常に正しい。小さな政府路線はいつも正しい」ということが「永遠の真理」として証明されたと信じている人、「市場原理主義」と呼ぶべき輸入品の考えを振り回す人々がいることだ。(P64)
割り勘国家論・増税論
第6章では、与謝野氏の国家観が展開されます。国と国民というのは、字句は異なるが同義語だということを忘れがちだ。「国家とは自己保全を目的とした官僚機構であり、必要悪である」と主張する佐藤優の国家観と比べると、国民が国家の主体、あるいは同一体であることが強調されていて興味深いです。しかし本章で著者が述べたいことは国家観ではありません。国家は割り勘の組織であることを前提とした上で、日本の財政が危ないので、これからは割り勘の負担を増やす、つまり増税が必要だ、ということです。与謝野馨は谷垣禎一らと並ぶ自民党内屈指の増税派です。
国家とは、国民が割り勘で運営している組織に過ぎない。…あくまで割り勘でやっている組織なので、国民と乖離したところに国という別の組織があるわけではない。(P147)
結局、財政再建をするためには、消費税率を10パーセントまで引き上げるところまでは、国民に耐えていただかなければならないことになる。これは否定できないことだと思う。皆で割り勘の額を増やさなくてはいけない。「増税よりもまず、無駄遣いを無くせ」という批判に対しては、財政赤字の金額と無駄遣いの金額では、予算の規模が違うと述べています。
上げ潮路線批判と両輪路線
「上げ潮路線」とは、主に中川秀直などが主張する経済成長路線です。基本的には経済成長にストップをかける増税に反対で、経済成長を第一と捕らえる人たちのことです。著者の理解によれば「小規模なインフレを人工的に作りながら名目成長率を伸ばすことで、税収が伸びるからこの先も大丈夫、という考え方」(P168)です。これに対し、著者は「両輪」路線を提唱しています。…財政が再建できなければ、日本の国全体の格付けは低下するばかりで、成長力が阻害される。つまり、財政再建と成長力の強化は車の「両輪」なのだ。私は一貫して「両輪」路線を主張し、元祖「両輪」派を辞任している・「上げ潮」路線に対して、著者はこの章で「幻想である」と一喝しています。自分は正直、経済・財政の分野に関しては全くの素人なので、「増税で国家支出と歳入のバランスをとらなければ国家は崩壊する」という主張と「増税は消費を低迷させ、景気を悪くする」という主張のどちらが正しいのか、判断がつきかねます。専門家の間でも意見が分かれる難しい問題のようですが、どちらが正しいのでしょうか。
「上げ潮」路線との大きな分かれ目は、インフレ頼みの再建か、増税を含めて考えるか、その違いである。
■与謝野馨はポスト福田たりえるか
最後に、本書とは関係ありませんが、政界での与謝野馨のポジションにいて見てみたいと思います。最近、与謝野氏をポスト福田候補として推す声が高まっているようですが、これは実際にはどうなのでしょうか。
まず、真っ先に気になるのが、現在与謝野馨は党内無派閥であるということ。麻生太郎・小池百合子・谷垣禎一などは、それぞれ自分の所属する派閥があり、その派閥の人数分は、ほぼイコールで総裁選での得票数になりえます。与謝野氏は一時期志帥会という派閥(伊吹派)に所属していたこともありますが、現在は無派閥。派閥に所属しない議員が自民党の総裁になったことは、今まで一度もありません。
自民党内で派閥の力自体が弱まっている現在、福田が選ばれた総裁選の様に派閥の拘束が聞かなくなる場合もありますが、無派閥の議員が総裁選でどこまで戦えるのかは疑問があります。
また、面白いのは本書の上げ潮路線批判で槍玉にあがっている中川秀直が、最近ポスト福田に意欲を見せているということです。仮に与謝野・中川の両人が総裁候補として手を上げれば、政策面で真っ向から対立することになります。これは総裁選の構図としては、選ぶ側もわかりやすく、国民の関心も高まるでしょう。
さらに、民主党の勢いが強まっている時期に、総選挙の顔として与謝野馨に集票能力があるのかという疑問があります。選挙の顔としてなら、麻生や小池の方が格段にインパクトがあるでしょう。先日の補選で敗北し、自民党に逆風が吹く中で、与謝野馨に自民党の救世主となるだけの素養があるか、といわれれば、少し印象が薄い気が否めません。個人的には、与謝野氏は主義・主張がハッキリしている人間なので、総理大臣よりも大臣や党役職として活躍して欲しいと思っています。最後に、ポスト福田に関して気になる記事を見つけたので、紹介しておきます。
→上杉隆「『ポスト福田』候補を決定的に変えた2つの記事」
麻生と与謝野の再接近は、麻生=与謝野クーデター説の再来か!?
0 件のコメント:
コメントを投稿