『ウェブ進化論』『ウェブ時代をゆく』でおなじみ、梅田望夫氏の著作。一応、奥付は2006年8月の初版ですが、2001年発行の『シリコンバレーは私をどう変えたか』の改題です。
■梅田本の謎がとけた!
書かれている内容は、96年秋から01年夏にかけてのシリコンバレー情勢についてなので、2010年を生きる僕らが「シリコンバレーのフレッシュな情報」を求めてこの本を読んでも、たいした収穫はないかもしれません。それでもこの本について書評を書こうと思ったのは、ずっと抱いていた、ブログ紹介
フィリピン・バギオ市在住 ㈱TOYOTAのブログです。旅日記・書評・メモなどなんでも詰め込むnaotonoteの文字通りオンライン版。
現在は英語学校 PELTHで働いています。過去のフィリピン編の記事は、学校のブログに転載しています。
2010-10-29
『シリコンバレー精神』
以前、斎藤孝氏との対談『私塾のすすめ』でも触れましたが、梅田さんの一連の著作からは、くさい言葉でいえば、「未来への無限の可能性」を感じられるというか、読んでいてとても明るい気持ちになれるのです。梅田さんの本には、「世界を良い方向に変える」ことに対してクレイジーと言っても差し支えないくらいに本気で取り組んでいる人々が数多く登場します。そして、人が何かの能力を鍛えようと思ったら、WEBの力を使って距離やお金などの制約を受けずに効率的・効果的な学習がいくらでもできるんだと、いう事例がいくつも紹介されています。これらを読んで、自分は本当にいい時代に生きているんだなぁ、といつも明るい気持ちにさせられますし、読んでいて自分の中に興奮とやる気が沸いてくるのをいつも感じます。少なくとも、何か好きなことに没頭する、ということをこれほど力強く肯定してくれる本に、僕はこれまで出会ったことがありませんでした。
そんな梅田本の「明るさ」や「未来を力強く肯定的に捉えるメンタリティ」はどこから来ているのだろう、というのは、初めて梅田さんの本を読んでからずっと抱いていた疑問でした。
本書の巻末、「文庫のための長いあとがき」に次の文を見つけたとき、その謎がとけたような気がしました。
近未来の方向について、その時点その時点で自分なりの判断を下し(未来から振り返れば間違いだらけであろうとも)、苦しくても断定する表現を心がけてきた。むろん、両論併記の誘惑は常にあった。日本では、オプティミズムに基づき未知の可能性を描くより、ネガティブな問題提起や批判を書くほうが、また判断を下すよりも判断を保留し両論併記をする方が、無難で受容されやすいからだ。ただ楽天的な観測に基づいて「WEBの未来は明るい」と主張されているのではない。情報を吟味し、自分で「断定」することのリスクを負う。その上で人に希望を与えうる文章を書く。それが梅田節だったんだ、とうことがこの一節から伝わってきました。梅田節の「力強さ」は、この梅田さんの「物書きとしての覚悟」に支えられていたんですね。
あえて判断と断定にこだわったのは、考えたことを行動に結び付けるには、どうしてもそれが必要だったからだ。そしてもう一つ、断定的表現でモノを書き、それが多くの人の目に触れるということは、自らに強い緊張を課すことになる。迷った挙句に強い表現をした文章は記憶に残る。その記憶が自らに反省を促す。「あそこまで強く断定するのではなかったなぁ」と悩みながら、断定対象の推移を同時代的に眺めつつ考えるのは厳しく辛いことだ。でもそれが人を成長させる。(pp299・300)
氏は「本書は、『シリコンバレー精神』でモノを書くということはどういうことなのかを、常に意識しながら書いた」とも述べています(p298・299)。そして「シリコンバレー精神」を「限られた情報と限られた能力で、限られた時間内につたないながらも何かを判断しつづけ、その判断に基づいてリスクをとって行動する」ことだと定義しています(p273)。いわば、シリコンバレーについてシリコンバレー精神に基づいて書いているのが梅田さんの本だったわけです。明るい未来を描いてはいるのだけど、同時に迫力もあったのは、この相乗効果のせいだったわけです。
■シリコンバレー精神は普遍的な価値観
なんだか『シリコンバレー精神』の書評というより、梅田さんのメンタリティ分析みたいな内容になっちゃいましたが(笑)、これってシリコンバレーに限らず、モノを書く、主張する、あるいは何かを人に伝えるうえで、欠かせないものなんじゃないかって気がしました。その時点でできる限りの努力しつつ、リスクを負って断定表現をする。そうした上で口から出る言葉からは、常に他人を動かしうるエネルギーや迫力が感じられます。「シリコンバレー精神」に基づいて動く人間は、洋の東西を問わず、人を動かすエネルギーをもっているのではないか。本書に限らず、梅田さんの本はシリコンバレーやWEBの世界で起きていることが著述の中心にありますが、その根底には、氏の、あるいはシリコンバレーに生きる人々の人生観めいたものが感じられます。単なる技術論ではなく、人生論。それも梅田本の魅力なのでしょう。そしてそれに読者が共感し、一定の支持を得ているのは、梅田さんの人生観や本書の定義する「シリコンバレー精神」がシリコンバレーだけに特有のものではなく、ある種の普遍性を持っているからなのではないでしょうか。
「限られた情報と限られた能力で、限られた時間内につたないながらも何かを判断しつづけ、その判断に基づいてリスクをとって行動する」というのは、人が他人に対して真摯に接するうえでのマナーだともいえます。そして、そうやって行動する人は魅力的ですし、そうやって行動することは人を成長させます。僕には、「シリコンバレー精神」に基づいて行動する人間は、洋の東西を問わず、どこでも一定の評価を得ることができるように感じます。つまり、「シリコンバレー精神」は人類に共通する普遍的な価値観なのではないか…。
自分も、つたないながらもこうやってブログで世に情報・意見を発信しているわけですから、これからはもっと真摯な態度で文章を書かないとだめだなぁ、と改めて思いました。リスクを負っても、これからは「らしい」とか「だそうだ」などといった表現をなるべく使わないように心がけます。それが、自分の成長につながるのですから。
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拝読しました。
返信削除彼の考えの良いところをついていると思います。
エンジニアのようですが、思想家だと感じますね。お父さんの遺伝かな?。
最近はネット将棋にハマっておられるようですが。では失礼します。