『ローマ人の物語』の塩野七生による、ローマ本。全体を通してローマの誕生から興亡まで触れていますが、『ローマ人の物語』をそのまま凝縮したような内容…になっているわけではありません。
本書を通じての全体のテーマは、「真の改革とは何か」です。ローマの歴史のうち、改革や変化の時代に、著者の力が込められている気がします。読んでいて、ローマの歴史とは、
- 新たなる問題の発生
- →それを解決するための改革
- →その弊害や新しい状況下で新たな問題発生
- →また改革
■真の改革とは再構築リストラクチャリング
ともすれば改革とは古い殻を脱ぎ捨てて、新しい制度を起こすことだと思われがちです。しかし、真の改革とは結局のところ、リストラクチャリング、つまり再構築をすることであり、カエサルが行なおうとしたのも、それに他なりませんでした。
どんな民族であろうと、どんな組織であろうと、自分たちの体質にまったくないものを外部から持ってきて移植してうまくいくはずもない。たとえ一時は劇的な成功を収めたとしても、土壌に合わない改革では定着はまずもってむずかしい。
したがって、改革とはまず自分たちが持っている資質や特質の、どれを生かし、どれを捨てて組み合わせていくかという再構築の形をとるしかないのです。(P216)
…とはいっても、改革は単に思い切りがよければそれでいいのかといえば、けっしてそうではない。
なぜならば、それぞれの国家や組織にはそれぞれの歴史と伝統があり、これを無視した改革をおこなってもうまくいくはずがないからです。
自分の手持ちカードがなんであるかをじっと見据え、それらの中で現在でも通用するものと、もはや通用しなくなったものを分類する。そして、今でも通用するカードを組み合わせて最大の効果を狙う。これがまさに再構築するという意味での真のリストラだと私は考えます。(P293)
おそらく、著者の頭の中には、アメリカ流の新自由主義経済を導入しようとした小泉改革が念頭にあるのでしょう。改革、というと、古いものを捨てて新しいものを取り入れるとだと思われがちですが、「今でも通用するカード」なら、手札に加えて用いていい。手札をそっくり入れ替えるのではなく、強いカードは残しておいて、勝負に必要のないカードを入れ替える。要は改革、すなわち再構築とはポーカーと同じだってことですね。
日本人は何か新しいことを始めるとき、相手の強いカードに目移りして、「だから日本は世界から遅れている」という発想になりがちです。が、相手の強さに学ぶのと同時に、自分の長所や性格を再確認する作業も、同じくらい重要なのです。そして、両者を再構築する。それこそが真の改革である、と。
それにしても、塩野さんの文章は、文中で「私はカエサルのように簡潔で明快な文章が好き」と仰っているだけあって、非常に読みやすく、スラスラと頭に入ってきますね。約350ページのダイジェスト版ローマ史なので、塩野さんも泣く泣く細かい部分を割愛しているようですが、それでも「ディテールにこそ、歴史の醍醐味はある」(P144)と宣言されるあたりには好感が持てました。
あと、本書の巻末についている、歴代ローマ指導者の採点表が面白いです。塩野さんのお眼鏡でみると、「あれ、アントニウスの点数、こんなに低いんだ」とか、彼女の視点でバッサバッサ切り捨てていく評論がなんとも痛快。これと同じ採点を日本の政治家にも当てはめてみたら面白そうです。
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