ブログ紹介

フィリピン・バギオ市在住 ㈱TOYOTAのブログです。旅日記・書評・メモなどなんでも詰め込むnaotonoteの文字通りオンライン版。
現在は英語学校 PELTHで働いています。過去のフィリピン編の記事は、学校のブログに転載しています。

2008-11-07

『ラーメン屋vs.マクドナルド』

何かの週刊誌(東洋経済だったかな?)の書評で紹介されていて面白そうだったのが、BOOK OFFの100円コーナーに並んでいたので読んでみました。



タイトルからすると一体何の本なんだ?といった感じですが、本書で展開されているのは日米比較論です。
  • 第1章 マックに頼るアメリカ人 vs ラーメンを極める日本人
  • 第2章 希望を語る大統領 vs 危機を語る総理大臣
  • 第3章 ディベートするアメリカ人 vs ブログする日本人
  • 第4章 ビル・ゲイツ vs 小金持ち父さん
  • 第5章 一神教 vs アニミズム
  • 第6章 消費者の選別 vs 公平な不平等
など、各章の見出しを並べてみるとわかるとおり、日米のあらゆるものを比較の材料にして、両国の文化を浮き彫りにしています。今回は、特に面白かった第3章、「ディベートするアメリカ人 vs ブログする日本人」を取り上げてみたいと思います。

■文字文化 vs 対面文化


よく言われることに、日本人はスピーチやディベートが下手、ということがあります。その反面、ブログの書き込み言語の世界シェアは、英語の36%を押さえて、日本語の37%が世界トップ。対面では激しい言いあいを好まない日本人が、ネット上の匿名掲示板では激しい罵詈雑言を浴びせあう。
公の場でおとなしい日本人が、なぜネット世界では激しいやり取りを行うのか、という疑問から考察が始まります。

ここで著者は、日米の文字文化における、習得すべき文字数の違いに注目します。日本語をまともに読み書きできるようになるためには、ひらがな46文字、カタカナ46文字に加えて、1000から2000の漢字を覚える必要があります。それに対し、英語の読み書きに必要な文字数は、わずか26文字のアルファベットのみ。必然的に、日本の子供は読み書きに多くの時間を費やさなければならないのです。
日本人は子供時代に「書く」ことを学ぶためにアメリカ人とは比較にならないほどの学習労力を費やしている。(中略)書く訓練に多くの労力を費やせば必然的に犠牲になる訓練が出てくる。それが口頭でのプレゼン能力、大勢の前で話し、討論する訓練である。(P71)
(アメリカは)アルファベットという、比較的簡単な文字体系を持ったことが、口頭プレゼン訓練により多くの時間を費やすことを可能にし、この二つの文化要素は相補的に強化されてきたのではないだろうか。(P74)
知識人を目指す中国や日本の子弟は文章作成訓練により、多くの時間を費やし、複雑な文字体系を駆使した文章文化を発達させた。一方で、西洋の子弟は別のプレゼン技術の訓練に時間を費やした。その結果生み出されたのが弁論文化である。(中略)古代ギリシャ時代のソフィストらの弁論術、ソクラテスの問答法は、口頭プレゼン、ディベート重視の文化的原点であろう。(P76)
以上のことから、文字文化の「ブログ」という土俵で日本人の活動が活発な理由が説明できると筆者は言います。確かに、説得力があります。文字体系の違いが、民族性にも影響するのですね。言語の概念が人間の思考を規定する、といったのは言語学者のソシュールですが、どうやら言葉の読み書きに使う文字数もそれぞれの民族の思考や文化を規定するようです。

■討議は闘技


経歴を見ると、著者の竹中氏は、三菱東京UFJ銀行の調査部の方で、現在はワシントンDCの駐在員なんだそうです。本書の中にも、アメリカのシンクタンクでの議論の場面などが何度か登場するのですが、そこでしきりにアメリカ人の議論好きを指摘しています。

これは、私もヨーロッパ放浪中にダイレクトに感じました。日本人の会話というのは、思ったことを交互に述べ合う、エッセイ的な内容が多い気がしますが、西洋人と会話をしていると、どうも会話なんだか喧嘩なんだか、解らなくなってしまうことが何度かありました。彼らはどうも、お互いの意見をぶつけ合うやりとりの方が、面白いみたいです。
(アメリカは)雄弁を駆使して討論し、聴衆を納得させる能力が高く評価されるディベート・カルチャーの社会である。そして、「討議は闘技」なのである。自分の主張の強い部分を前面に押し出し、弱い部分は見せないように議論を組み立てなくてはならない。従って、パブリックでの議論は「駆け引き」に満ちたものになる。(P94)
昨日、オバマがアメリカの次期大統領に決定しましたが、一連の選挙におけるディベート大会などでは、オバマ・ヒラリー間で "Shame on Hillary !"(恥を知れ、ヒラリー!) "Shame on you !"(あんたこそ恥知らずめ!)などというやりとりが見られ、それは正に「討議は闘技」の様相を呈していました。

最近、僕は自分の専攻の関係で、よくイギリスのPMQ(Prime Minister's Question 首相答弁)の議事録や動画を見るのですが、その有様はまさに「闘技」です。議場のメインテーブルを挟んで、両党の党首が激しいやり取りをする。殴られても殴り返す。まるでボクシングの試合のようです。

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動画は、現英国首相・労働党党首ゴードン・ブラウンと影の首相・保守党党首デーヴィッド・キャメロンのやりとり。それぞれ後ろには、労働党副党首のハリエット・ハーマン、財務相アリスター・ダーリング、大法官ジャック・ストロー、保守党側には元党首・影の外相ウィリアム・ヘイグ、影の財務相ジョージ・オズボーンら錚々たる面子が控えます。

日本の国会答弁で、閣僚やベテラン議員が居眠りをしているのとは、まるで大違いです。
実は自分も、文章を書くよりも「駆け引きに満ちたやりとり」のほうが好きだったりします。本音を言えば、こんなブログを書くよりも、読んだ本に関する意見や感想を言い合える仲間が欲しい(笑)